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循環器病予防部門 CIRCS研究報告

<報告>井川町における循環器病予防対策の費用面からの検討

 秋田県井川町では、昭和38年より先進的な循環器病予防対策が開始され、平成24年に50周年を迎えました。大阪がん循環器病予防センターでは対策の当初より井川町の予防事業に協力していますが、このように長期にわたり予防対策を続けてきた地域は世界的にもきわめて少なく、井川町の取り組みは現在の全国の健診制度を構築したときのモデルとなっています。実際に、県内の他の地域と比較した場合でも、井川町では健診の受診率が高く、健診で発見された高血圧をきちんと治療している人も多く、脳卒中の発症率も低く抑えられていることがわかっています。

 しかし、こうした自治体による取り組みに対し、昨今では費用効果性があらためて問われるようになってきました。そこで、井川町の対策の費用効果性について、対策が始まってから25年間を、秋田県内の他の地域(一般対策地域)と比較しました。図では、縦軸の「増分費用」が0より低い場合、井川町の方が一般対策地域よりも費用が少ないことを意味しています。図より1977(昭和52)年頃を境に0を下回って、以降、費用効果はますます大きくなっていることがわかります。



 この費用には、町が事業として行う保健事業費と、それによって発見された高血圧の治療費、さらに予防しきれなかった脳卒中の治療費が含まれます。井川町の保健事業費は、予防施策への積極的な投資の結果、25年間一貫して一般対策地域より高くなっていました。

一方、高血圧治療費に関しては、当初10年間は、健診で高血圧が発見された後、保健師等の事後指導などにより、町の皆さんが薬を飲むようになったために、一時的に治療費は高くなりました。しかし、10年目を過ぎた頃になると、町の予防対策が浸透して、薬が必要な高血圧にかかる人自体が一般対策地域よりも減ってきました。そして、脳卒中にかかる人も減ってきました。そうすると、高血圧や脳卒中の治療に必要な費用も一般対策地域より少なくなり、ついには、町が予防のために保健事業費をたくさん投資しても、それ以上に治療費が少なくなるために、全体としては費用が安くなりました。これを「費用節約」といい、最も費用効果性の高い状態に相当します。


 この結果は、Journal of Hypertension(欧州高血圧雑誌、平成24年)という医学専門雑誌に公表され、井川町の半世紀にわたる取り組みは、現在脳卒中多発に苦しむ東アジアや東欧諸国、途上国を含む多くの国々にとって有用な教訓になりうるとの評価を受けました。


 本研究の一部は平成24年度厚生労働科学研究費補助金事業(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)「離島・農村地域における効果的な生活習慣病対策の運用と展開に関する研究」(研究代表者・磯博康、研究分担者・木山昌彦)により実施されました。


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