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循環器病予防部門 CIRCS研究報告

<報告>脳卒中予防を目的とした高血圧対策の効果について

 日本では、欧米に比べて脳卒中死亡率が高い傾向にあったため、これを改善するために1960年代に脳卒中予防を目的とした高血圧対策が始まりました。東北地方にあるI 町とH市においても、1963年から高血圧対策が開始されましたが、その対策方法が異なっていたため、2地域を比較して高血圧対策が脳卒中予防にどのような効果があるのかを検討しました(国際専門誌 Stroke 1998年29巻1510-1518項)。

 対象者は、I町の30歳以上の男女3219人とH市の30歳以上の男女1468人です(1965年国勢調査人口)。高血圧対策の方法は、I町では①30歳以上の男女を対象とした血圧測定による高血圧者のスクリーニング、②高血圧者の医療機関への受療勧奨、③健康教室や家庭訪問、④健康ボランティアの養成、⑤メディアを用いた啓発活動を行いました。H市では、基本的な対策はI町と同じですが、健康教室やメディアによる啓発活動は行われませんでした。血圧測定による高血圧者のスクリーニングは、2地域において同一の方法で実施され、高血圧者(最高血圧≧160mmHgまたは最低血圧≧95mmHg、または降圧剤服薬中の者)と判定された者は、その後毎年血圧測定を行い、高血圧と判定されなかった者は、I町ではその後4年毎に、H市では2年毎に再測定を行いました。




 図1は、I町とH市の30歳以上の健診受診率の推移を示しています。I町とH市ともに1964-69年は高い受診率でしたが、I町ではそれ以降も男女ともに大きな受診率の低下は見られませんでしたが、H市では1970年以降に受診率が大きく低下しました。図2は、高血圧有病率の推移を示しています。I町とH市を比較すると、1960年代は男女ともに高血圧の有病率に差はありませんでしたが、1970年以降はH市に比べてI町のほうが男女ともに有意に有病率が低くなりました。図3は、I町とH市における脳卒中罹患率の推移を示しています。男性の脳卒中罹患率は、両地域とも減少していますが、特にI 町において大きく減少しました。女性の脳卒中罹患率は、両地域とも男性ほど高くはありませんでしたが全体的に低下傾向を示しており、地域差は明確には認められませんでした。脳卒中の有病率を比較すると、男性ではI 町では1972年から1987年にかけて半分以下に減少しましたが、H市では1987年ではむしろやや増加傾向でした(図4)。女性は、両地域とも脳卒中の有病率は減少しましたが、I町のほうがH市より低い有病率を示しました。

 以上の結果から、高血圧者のスクリーニングやその後のフォローアップ、高血圧者の医療機関への受療勧奨、健康教室の実施、住民参加型の事業などの包括的な高血圧対策を行うことで、I町では高い健診受診率が維持され、高血圧有病率がH市よりも有意に低下していました。さらに、特に男性において脳卒中の罹患率、有病率が低下していることから、これらの高血圧対策は、脳卒中罹患率と有病率の低下に効果的であると考えられました。


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